広島高等裁判所 平成3年(ネ)78号 判決 1991年9月26日
主文
一 原判決を次のように変更する。
1 被控訴人は控訴人らそれぞれに対し、金二五〇万円及びこれに対する平成元年五月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 控訴人らのその余の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
三 この判決第一項の1は仮に執行することができる。
事実
一 控訴人訴訟代理人は主文第一項の1(但し、同項中「五分」とあるのは「六分」とする。)及び第二項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴人訴訟代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。
二 当事者双方の主張は、次のとおり改めるほかは原判決事実摘示のとおりであり、証拠関係は原審記録中の書証目録記載のとおりであるからこれを引用する。
原判決二枚目裏一〇行目の「車外に逸脱し」を削り、同末行の末尾に「亡美千代が右傷害を負ったのは、本件被保険車の車体に頭部を激突させてか、訴外倉重屋友行運転の大型貨物車の車体が直接同女の頭部等に衝突したためか、あるいは追突による衝撃で車外に投げ出され頭部等が道路に激突したためかは不明である。」を加え、同三枚目表四行目の「起因ずる」を「起因する」に、同七行目の「申立記載の各金員」を「それぞれ金二五〇万円並びに右各金員に対する右保険金の支払を請求した後である平成元年五月一四日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金」にそれぞれ改める。
理由
一 控訴人らの請求に対する認定、判断は、次のとおり改めるほかは原判決がその理由の一ないし三で認定、説示するところと同一であるからこれを引用する。
1 原判決七枚目表四行目及び六行目の「後部座席」の次にそれぞれ「のシートバック」を加え、同七行目の末尾に「本件被保険者の後部座席の両脇並びに運転席の背部には、後部座席の乗車人員が、車の動揺、衝撃に備えてその体を支えてその安全を確保するための設備としてそれぞれ把手が付いていた。」を、同末行の「後部座席」の次に「のシートバック」を加え、同裏三行目の「投げ出され、」を「投げ出された。美千代は、」に改め、同五、六行目を次のように改める。
「しかし、本件全証拠によるも、亡美千代は、追突による衝撃により本件被保険車の車体の内部に頭部を激突させて脳挫傷等の傷害を負ったのか、追突による衝撃により路上に投げ出され、道路の縁石等に頭部を激突させて右傷害を負ったのか、又はそれ以外の理由により右傷害を負うに至ったのかは判然としない。」
2 原判決八枚目表三行目の「後部座席」の次に「のシートバック」を加え、同四行目の「洗剤等を積み」から同五行目の「右場所に」までを「洗剤等を積んでいた脇に亡美千代は」に、同行目の「乗車していた」から同七、八行目の「いうべきである」までを「乗車していたものである。しかし、いわゆるワゴン車の後部座席は、座席としても、荷台としても使用することができるよう設計されているから、もともと人間が搭乗しないという前提で設計されている乗用車のトランクや貨物自動車の荷台(道路交通法五五条一項において例外的に積載物の看守上荷台に最小限度の人員を乗車させることが認められているが、本来は積載のために設備された場所(道路運送車両法四一条)であり、乗車のために設備された場所ではない。)等とは異なり、これを取り外してしまった場合(この場合は、もはや乗車のために設備された場所ではなくなり単なる「積載のために設備された場所」となるものと解される。)は格別、偶々後部座席のシートバックを倒したままでこれを座席として使用していたからといって、直ちに「正規の乗車用構造装置のある場所」ではなくなったということはできないし、また右のようにシートバックを倒して座席の背もたれがない状態にしていても、前示の把手に掴まることによって自動車の動揺、衝撃等による危険に備えることができるのであるから、シートバックを倒した後部座席に乗車中の者もそれだけで当該乗車用構造装置の本来の用法によって搭乗中の者に当たらないということはできないというべきである。もっとも、正規の乗車用構造装置のある場所に搭乗している者であっても、極めて異常かつ危険な態様で搭乗している者は、乗車用構造装置の本来の用法によって搭乗中の者ということはできないことはいうまでもない。しかし、右のようにいわゆるワゴン車のシートバックを倒した後部座席に乗車していたからといって、その乗員の安全性が著しく低下することを認めるに足る証拠は全然ないから、右乗員は極めて異常かつ危険な態様で搭乗している者には該当せず、従って、後部座席のシートバックを倒してそこに搭乗中の者は、なお「当該乗車用構造装置の本来の用法によって搭乗中の者」に該当するものというべきである。」にそれぞれ改める。
二 そうであるとすると、亡美千代は、本件被保険車の「正規の乗車用構造装置のある場所に搭乗中の者」に該当するから、控訴人らは、本件保険契約の死亡保険金の受取人である亡美千代の相続人らとして、本件保険金五〇〇万円をそれぞれの相続分(各二分の一)に従って受け取る権利がある。
そうして、弁論の全趣旨によれば、控訴人らが平成元年五月一三日以前に被控訴人に対して本件保険金の支払を請求したことが認められる。
もっとも、被控訴人は相互会社であるところ、相互保険会社の営む相互保険は営利の目的とはなり得ないから、本件保険契約は営業的商行為には該当せず、従って控訴人は商事法定利率による年六分の割合による遅延損害金は請求し得ず、民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を請求することができるに止まる。
よって、控訴人らの本訴請求は各金二五〇万円及びこれに対する平成元年五月一四日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余の遅延損害金の請求は理由がなくこれを棄却すべきである。従って、これと異なる原判決は一部不当であるから、右判決を変更して控訴人らの請求を右の限度で認容し、その余はこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、八九条、九二条但書を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。